title: やさしいひかり
author: Amane Katagiri
summary: 生体データに気を付けて
date: 2020-12-20T14:22:00+09:00
category: lily
license: CC BY 4.0
rating: sfw
ai_summary: 友人A子からメッセージ連動型のLEDランプを贈られたB子は、ARグラス越しに会話を楽しみ、光を通じてA子との繋がりを感じていた。自身の高揚感が光に反映されていると期待するB子だったが、急にランプが赤く点灯し、それを見たA子の態度も豹変してしまう。最新デバイスを通じた二人の親密さと、どこか噛み合わない心の機微を描いた、少し不穏な空気感を纏う百合短編作品。
ai_keywords: 百合, LEDランプ, ARグラス, コミュニケーション, 友情, デバイス, メッセージ, 気まずさ, 不穏, SF要素

「Ｂ子、絶対に見逃しちゃダメだよ？」

不思議なことに、私はＡ子の言葉に操られるようにその瞬間をじっと待っていた。数分離れた隙に台無しになってしまったらどうしようと、ほんの十歩先にあるトイレに行くのを我慢してしまうほどに。

こたつの上に、Ａ子からもらったプレゼントが置かれている。つやつやした黒くて四角いプラスチックケースの真ん中をくり抜いて、ゆるやかに盛り上がったカーブを描く乳白色の拡散キャップがはめ込まれた小さなLEDランプ。Ａ子のところにも同じ――ただし、ケースが白い――ものがあるはずだ。

充電コネクタさえ見つけにくいシンプルすぎるデザインなのは、私よりもＡ子自身の好みで選んだからだろう。それ自体は構わないのだけど、スイッチさえ見つからないのはもはや設計ミスと言ったほうが正しいのかもしれない。今もほんのり黄色く光ったまま、消すことも明るさを調節することもできずにいた。

Ａ子が帰ってから一時間ほど経った。普段なら、みかんの入ったバスケットと大袋入りのクッキー、書きかけのレポート……いろいろとごちゃごちゃしているはずだけど、今はこのLEDランプだけがテーブルを占領している。Ａ子が美味しいからと勧めてきたオレンジティーの残りも、冷蔵庫にしまっておいた。

「……あ、光った」

すると、唐突にその瞬間が訪れた。高輝度のフルカラーLEDが、半透明のカバーを通して綺麗な青色に三回点滅する。Ａ子からメッセージが来た合図だ。さっきARグラスにインストールしたアプリを経由して、ランプを制御しているらしい。テーブルに手をかざすと、ARウィンドウからトーク履歴が飛び出した。

:a: Ｂ子、ちゃんと光ってる？

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> うん。 :blue_heart: が3つだよね？

:a: :blue_heart: :ok:

:a: 通知が来てない間はどう？

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> なんか黄色？オレンジ？に光ってるけど、あんまり明るくない :orange_heart: かも :duck:

:a: :orange_heart: :ok:

Ａ子とのやり取りが続くたびに、ランプが青く点滅する。せっかくのフルカラーLEDなのに、青色しか使えないのは寂しいなと思ってＡ子に理由を聞いてみたら、「クリスマスのイルミネーションっぽいから」と言っていた。クリスマスカラーなら赤と緑だと思うけど、確かに街で見るのは青い光かもしれない。

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> Ａ子のランプも光ってるの？

:a: こっちも :blue_heart: が3つだよ :heart:

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> :heart:

:a: :heart: :heart: :heart:

「そっか。Ａ子も、私と同じ光を見てるんだ……」

ふと、部屋の電気を消してみる。

暗闇の中で、メッセージアプリとLEDだけが浮き出るように明るく光っている。通知に合わせて点滅するLEDは、駅前で見るイルミネーションと比べれば暗くて寂しい光だけど、Ａ子と分かち合ってると思うだけでなんだか温かい気持ちになる。

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> 通知に合わせて光るのって面白いね

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> 光らなくても、ARグラスなら通知が来たってすぐ分かるのに

:a: グラスを外してるときも通知が見えて便利 :v: :smirk: :v:

:a: Ｂ子のメッセいつでも読みたい :smirk: かも :duck:

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> :smirk:

:a: :duck:

トーク画面を閉じると、ランプだけが何度も明滅して、まるで目の前でＡ子が話しているみたいでドキドキする。どんなことを話しているのか、どんな気持ちなのか、どんな格好なのか……それは分からないけど、私とのおしゃべりを楽しんでくれていたらいいな、と思う。

ランプに顔を近づけて、白いキャップをそっと撫でる。Ａ子のおしゃべりを見ているうちに、だんだんと黄色い光が強くなってきていた。それも、ただ明るくなるだけではなく、脈打つように揺らめきながらその輝きを増している。まるで、蝶がさなぎを捨てて飛び立つかのように。

この光はＡ子の分身か、あるいは私の分身か。

「Ｂ子のメッセいつでも読みたい、かも……だって」

例えば、私がＡ子に感じているドキドキが黄色い光に変わっているとしたら。この光を見ているＡ子に私の鼓動が伝わってしまうとしたら。

今日は不思議な日だ。また光が強くなる。いつも一緒にいるはずなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう――

「……あ、トイレに行きたいんだった」

――Ａ子とのおしゃべりに夢中になっているうちに、すっかり尿意が限界を迎えていた。Ａ子へのドキドキではなく、尊厳のピンチに対するシグナルだったらしい。

窮地を脱してトイレから戻ると、なぜかテーブルの上のランプが今日一番の明るさで赤い光を放っていた。部屋の雰囲気ががらりと変わって、まるでARグラスがクラッシュしたときみたいだ。しばらく眺めてみるけれど、LEDはずっと赤く光ったまま。流石に故障だろうと思って、写真と一緒にメッセージを送ってみたけどなかなか返ってこない。

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> 明日、Ａ子の家行っていい？

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> ランプが赤 :heart: のまま消えなくなっちゃった。修理して :pray: :pray:

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> あれ？寝落ちた？

赤い部屋って、静かに座っているだけでもなんだか不安な気持ちになる。再び部屋の電気を点けてランプを眺めていると、しばらくしてＡ子からそっけないメッセージが返ってきた。

:a: 故障だと思う

:a: でもごめん

:a: 明日、部屋の掃除しなきゃいけないから無理かも

:a: :pray:

<img alt=":b:" class="emoji" src="/emojis/1f1e7.png" width="16" height="16"> そっか。頑張って :pray:

Ａ子ってば、どうしちゃったんだろう。そう思いながらふとテーブルに目をやると、壊れたランプが少し遅れて青い点滅を放っていた。

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[百合SS Advent Calendar 2020](https://adventar.org/calendars/5688)
