アーモンドフィッシュといえば、小魚とアーモンドを組み合わせたおやつ、間食、おつまみの定番である。魚またはナッツ、あるいはその両方が嫌いでなければ一度くらいは食べたことがあるはずだ。
きっと、あなたは今こんなアーモンドフィッシュを思い浮かべている:
- 小さな「にぼし」と縦に割られた細長いアーモンドが入っている
- にぼしよりもアーモンドの方が多く入っている
- アーモンドは皮が剥かれて表面がさらさらしている
- にぼしは甘くてべたべたしていて、しかも白ごまがカチカチにくっついている
- 一緒に食べるとジャンルの違う香ばしさが混ざってうますぎる
特にこの縦に6分割された細長いアーモンドは「スリーバード(スリバード)1」と呼ばれるもので、製菓や製パンに使われることもあるようだ。ピーナッツチョコやくるみパンの変わり種のようなイメージだろうか。私はアーモンドフィッシュでしかこの形状を見たことがないが、アーモンドスライスとの違いが表にまとめられるくらいには一般的なものらしい。
さて、アーモンドフィッシュがアーモンドスリーバードばかり採用することに疑問を覚えたことがある人、となると半数は脱落してしまう気がする。スリーバードが当たり前だと思っている人が、細長いアーモンドと細長い小魚は一緒に食べるのにちょうどいい、ときちんと意識の上に置いて考えるのは少し難しい。
スライスアーモンドが使われないのはなぜか、アーモンドホール(ホールは「丸ごと」という意味だ)が使われないのはなぜか。スライスアーモンドはトッピングや飾り付けに使うもので、袋詰めしてにぼしと衝突させるほどの強度はない。ではアーモンドホールはどうだろう? 子供のおやつには大きすぎて食べにくい? 明治アーモンドチョコレートは人気なのに? ひょっとすると――
アーモンドフィッシュについて、ショッピングサイトでキーワード検索(あるいはAIに依頼)すると、様々な袋詰めあるいはプラカップやガラス瓶に詰められた商品が見つかる。そして、やはり多くの商品があなたが思い浮かべていたとおり、砂糖と水あめがたっぷりまぶされて細長いアーモンドスリーバードとブレンドされたものばかりだ。
水あめでべたべたになったにぼしは、指でつまんで食べるのに向かない。そもそも、薄甘い小魚というジャンル自体がそこまで人気とは思えない2。栄養たっぷり!健康にいいおやつ!と宣伝されるようなアーモンドフィッシュに、実は砂糖と食塩がたっぷり使われているというのはやっぱり欺瞞だ。
では、健康志向を前面に押し出したり、おつまみとして売られているような商品まで甘い味付けで出荷されているのはなぜか? そんな疑問までしっかり覚えた経験がある人だけを残すと、さらに半数が脱落してしまう。
にぼしに水あめなり砂糖なりで糖分を添加すると、水分が減って保存性が高まる。田作りや佃煮はそういう性質を利用したもので、常温で放置されがちなアーモンドフィッシュの生臭さや苦さを防ぐわけだ。特に子供のおやつとして売っている商品なら、子供の味覚に合わせた甘い味付けなのだろう。
しかし、これが子供向けの枠を飛び出したアーモンドフィッシュまで一辺倒に甘いとなると、やはり説明がつかない。同じような海産物であるスルメについて、甘辛い「のしいか」や大学するめを最初から想像する人はそういないのに、アーモンドフィッシュではそれが当然だと断じられたまま誰も何も思わない状態が放置されている。
アーモンドフィッシュの奥深い世界によれば、プロのナッツ専門店の目線からするとアーモンドフィッシュの組み合わせは「10パターンや20パターンではきかない」らしい。確かに提示されている組み合わせなら100通り以上になりそうだ3。この記事ではアーモンドフィッシュの自作も勧めていて、小売業者から見ても一辺倒なアーモンドフィッシュばかり蔓延っているというのが分かる。
結局のところ、アーモンドフィッシュは好きなアーモンドと好きなフィッシュをそれぞれ買って食べた方がおいしい。しかも安い。田作りの出来損ないのような甘いにぼしで我慢する必要もない。アーモンドと小魚を皿に入れて混ぜるだけなら、コンロもレンジもミキサーもいらない。
そして、これはアーモンドフィッシュに限らないことだ。誰かが作ったA+BよりもAとBをそれぞれ選んだ方がいい。食べ物でも漫画でも小説でも何を当てはめても当然に成り立つ。違いはAとBをA+Bにする手間がどれほどかかるかということくらいで、アーモンドフィッシュは絵や小説と違ってその手間がごく小さいということだ。
みなさんは明日スーパーに行って無塩のアーモンドを1袋買う。その足でおだしの売り場に移動して食塩無添加のにぼしも1袋買う。そして、家で皿に同量ずつ出して混ぜ合わせる。テーブルに並べて一緒に食べるだけで、いつものアーモンドフィッシュの香ばしさが口いっぱいに広がるだろう。そこにはもう余分な砂糖も食塩もない。その糖分や塩分を別のグミやせんべいに振り替える自由さえ残される。
そんな既製品のアーモンドフィッシュを買うのとほとんど同じ手間で済むことが、アーモンドフィッシュ業者に任せると全て資本主義的な「付加価値」としてアピールされ、その宣伝文句はそのまま値段に跳ね返っていく。どうせ小魚を低品質な水あめに泳がせているのに、だ。やたら大きな文字で上から下まで写真を並べて購入ボタンも探せない通販サイトのことは、もう考えなくていい。
アーモンドフィッシュ
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当店自慢のアーモンドフィッシュ!
選ばれる7つの理由
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ほんのり甘くて食べやすい味付け
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ビタミンE:4.2mg
アンチエイジング効果も期待
タンパク質:8.5g
筋トレ後のおやつにも最適(...まだまだスクロールが続く...)
……あぁ、いやだ。
餅は餅屋、という言葉の通り、私たちはアーモンドフィッシュ業者に泣きつくよりもアーモンド業者とフィッシュ業者にそれぞれ頼るべきだ。生み出す価値において劣加法性が成り立っている。
中間業者が各業者の貢献の和を超えるには、アーモンドフィッシュ業者自身が「10パターンや20パターンではきかない」複雑なブレンドに対応する必要があるだろうが、自家で済む作業が人件費以上の価値を生めるとは思えない。そして、アーモンド業者とフィッシュ業者がそれぞれ10通りの商品を磨いている間、アーモンドフィッシュ業者は100通りの商品を用意しなければならない。すると1つの商品にかけられる手間は10分の1になる。そこにもう中間業者が入り込む隙はない。
私たちはアーモンドフィッシュを最適化したいと思っていて、アーモンドフィッシュ業者は価格の範囲内で利益を最適化したいと思っている。いくら付加価値をアピールしたところで人件費や輸送費を含めた価格を超えることはできない。資本主義社会では当たり前のことだ。そこにほんのわずかな手間をかけて中間業者を飛ばすのは、嫌儲の時代からインターネットで人気を集めてきた「中抜き」の実践そのものである。
アーモンドフィッシュはアーモンドとフィッシュを食った方がうまい。その方が経済的だし、しかもずっと健康的だ。