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icon of Amane Katagiri イってないよね?

お金欲しさにこんなゲームに参加するんじゃなかった、とミキは思った。「同時に絶頂しないと出られない部屋」なんて、 なかよし のあたしたちなら簡単だったはずなのに。もしも時間が戻せるなら、きっとサナの言うとおりに二人でその場を立ち去っていただろう。

白い床、白い壁、白い天井、白いベッド。いかにも実験室という感じの部屋に通された彼女たちは、三人の――いや、三台の合議制絶頂判定AIに三方向から監視されながら、たった十万円のために既に二時間以上はこうして性器を擦り合わせ続けていた。

たった十万円とはいえ、これでも大学生の彼女たちがルームシェアする小さな部屋の家賃を払っても少し余るくらいで、サナも反対しつつその金額の大きさに気持ちが揺らいだ、というのが正直なところである。

「ね、ねぇ……サナ、まだなの……? ダ、ダメ……イくっ!」

「あ……わ、私もっ……」

ミキが身体を弓なりに反らして仰け反るのに少し遅れて、横たわったサナも控えめに身体を震わせる。ミキはサナの細くて綺麗な身体に触れるのが好きで、付き合い始めた頃は手を繋いでいるだけで嬉しかったんだよ、と話したのはちょうど昨日の夜のことだ。

お互いの下半身がびくびくと震えるのをひとしきり見つめてから、今度は顔を見合わせて頷く。本来ならお互いを愛おしく思うためのコミュニケーションが、まるで点数を付けられるための競技のように洗練され始めていた。性格も違う、高校の部活さえ正反対の二人の間に、恋愛や快楽ではない新たな絆が芽生え始めているようにも見える。

しかし、AIはいずれもNG!の札を上げて、さらに絶頂チャレンジを続けるよう促した。ミキが思わず「はぁ⁉」と声を上げて立ち上がる。脚が少しぷるぷると震えていた。いつもならサナが音を上げるまで眠ろうとしない元気なミキにも、少し疲れが見え始めている。ラブホテルに行ったってもう少し休憩を挟むのに、なんて冗談を差し込む余裕もなかった。

「ま、まだクリアできないの? 判定が厳しすぎない……?」

「ごめんね、ミキちゃん。私、ちょっとイくの遅れちゃったかも……」

へたり込んだミキを支えるように、起き上がったサナが肩に手を回す。疲れと興奮で呼吸の荒いミキを落ち着かせるように、サナがゆっくりと深呼吸しながらしっとりとした肌を合わせた。彼女から伝わる熱を広げるようにサナを見つめるミキに気付いて、サナが目を閉じる。そうして、小さくキスをした。

「あたしこそごめん。すぐイっちゃうほうだから、サナに合わせられなくて……次はサナに合わせるから、教えて?」

ミキがサナのお腹を撫でながら、薄い乳房に顔を近づける。次はサナがイくのに集中して、そのタイミングに合わせて自分ですればいい、と思ったのだ。しかし、ミキはサナの色の薄い小さな乳首を舐めながら、抑えるような喘ぎ声を聞くだけでじわじわと下半身が熱くなるのだから、実際のところどうでもよかった。

「う、うん……頑張るね」

しかし、ミキを見下ろすサナの笑顔はどこか引きつっていて、一瞬目を逸らしたのをミキは見逃さない。

「どうしたの、サナ。疲れちゃった?」

「そういうわけじゃないんだけど――ねぇ、ミキちゃん。怒らないで、聞いてほしいんだけど……いい?」

「サナのことであたしが怒るわけないでしょ? なに?」

そう言ってサナを安心させようとするミキだったが、当のサナには伝わっていないようで、どこから話し出せばいいのかという様子でしばらく押し黙っていた。すると、AIがこの沈黙で何を勘違いしたのか「百合カップルが上手くいくコツ7選」という出所不明の記事を読み上げ始め、堪えきれなくなったミキが「うるさい! いまサナがしゃべるから黙ってて」と強制終了させる。

サナが話し始めたのは、それからさらに二十秒ほど経ってからだ。

「私ね……実は、今までイったことなくて。もう、この部屋から……出られない、かも……」

言い終わる前に、サナが顔を歪めて泣き始める。ひくっ、うっ……と、こうして息を殺して泣くのは父親にずっと叱られたからだ、と前に言っていた。泣き出すと叱られたのを思い返してもっと悲しくなる、とも。

泣き出す彼女と、そこから飛び出た唐突な発言に、ミキはその場から動けなくなる。いつもならサナを胸に抱き寄せて落ち着くまで撫でてあげるはずのミキが、目を丸くしたまま座っているのは、セックス中に泣き出したことがなかったせいかもしれない。

「えっ、どういうこと?」

「だから、私はミキちゃんにしてもらっても、自分でしてもイけないの。だから、同時に絶頂なんて無理なの!」

サナが最近でも一番大きな声でそう叫ぶ。そして、箍が外れたようにわんわんと泣き始めた。恋人のミキに通用する演技ならAIでも騙されるだろう、と思っていたサナは、何度イったふりをしても終わらない絶頂チャレンジの重圧に耐えきれなくなっていたのだ。AIが「心拍数の上昇を確認――リラックスを推奨します」と告げる声も、今の彼女には逆効果だった。

頭が殴られるような感覚に押し出されて、やっとミキの思考が動き出す。

しかし回り始めた彼女の頭に浮かぶのは、目の前で泣き叫ぶサナの宥め方ではなく、彼女と肌を重ねた日々の思い出である。ミキが指を動かす度に「ミキちゃん、イきそう……」「もっとして……」「あ、あぁあっ……ミキちゃん、大好き……」なんて言ってくれたサナの声は、全部嘘だったのか。そう思い至ると、ミキの目からも大粒の涙が零れ始めた。

「な、なんで? いつも気持ちいいって言ってくれてたじゃん」

「気持ちいいよ。気持ちいいし、すっごく幸せなの……でもイけないの!」

「そんなの……別に言ってくれたっていいじゃん! なんでイくとか、変な嘘つくの」

「だって」「なに?」「私がイけないって言ったら、ミキちゃん絶対エッチしてくれなくなるもん」

サナがミキの手を握って、拗ねた子供のような声でそう白状した。ぼろぼろ流れるミキの涙を見たサナは、頭が自分の感情にやっと追いついてきて、そろそろ急に恥ずかしくなる頃だ。残った涙と混ざりあって、少し怒っているようでもあった。相手が望む姿でミキの気持ちを盛り上げる……サナにしてみれば我慢するための嘘ではなく、ミキと幸せに過ごすための言い訳でしかなかった。

当然、ミキにとっては青天の霹靂で、しかし自分だけが絶頂するセックスに罪悪感を覚えないとは言い切れない。ミキはサナが思う通りに優しい子だ。だからミキは、何も言わず彼女を見つめることしかできなかった。

「めちゃくちゃになってるミキちゃん……すごく可愛いんだよ。それだけで幸せなの。だから、イかなくてもいいの」

「で、でも……だからって……」

いつの間にか二人の涙は止まっていた。自分だけが一人で絶頂している滑稽な姿ではなく、ただ自分とセックスしたいと思ってくれる存在がいる。サナの言葉でそう思い至ったミキは、愛おしそうに自分の頭を撫でる彼女の顔をどうしてもまっすぐ見ることができなかった。


溢れかけた雫が残った涙目のまま抱き合っていた二人は、やがて黙って見つめ合ったまま、サナがミキの目尻をちろと舐めて「甘いね」と言って笑う。ミキも仕返しのようにサナの涙を舐めとって「サナのはしょっぱい」と返す。くすくす笑い合う二人の間にまた沈黙が流れて、どちらともなくキスをした。

サナはミキの耳元で自分の濡れた股間を触るようねだって、優しく撫でるミキに合わせてサナもまた彼女を愛撫する。一度は涙で冷えたミキの身体だったが、サナの指を呑み込む動きが欲深く絶頂を求める。程なくしてミキは、サナを気持ちよくするのも忘れて「あたしすぐイっちゃうから、そんなに強くしないで……」と熱くなる自分の顔を覆った。

必死に絶頂を迎えようとするミキの喉の震えが、全くの無防備のままサナの前に晒されている。そういう姿を見る度に、サナの脳にはじわじわとした快感が走っていた。もちろん、ミキはそんなことを知らないまま、彼女にじっと観察されているだけだ。

「うん……安心して気持ちよくなってね、ミキちゃん……」

「あぁ、あっ……イ、イくっ!」

もちろん絶頂判定結果はNG、である。

それから二人はどうすべきか話し合った。AIは想定外の入力には対応できないはず。そう言い出すサナのアイデアを試すために、ミキが部屋に用意された様々な道具を引っ張り出す。

――体温と心拍数が平常に戻っています。ムードを盛り上げるための音楽を再生する場合は1を――

ローター、電気マッサージ器、ディルド、コスプレ……くらいは予想通りとして、最新ゲーム機やカラオケセット、加湿器やドライヤー、見覚えのあるラベルのペットボトル水まで収納されていた。真っ白な部屋にいろいろな道具が散らかって、まるで3Dモデルの部屋にいるようだ。AIに尋ねてみると、食事が必要なら持ってきてくれるらしい。ピザも出る。寿司も出る。こういう部屋ってラブホテルの居抜きなんだ、とミキは密かに思った。

絶頂判定AIは絶頂以外は判定できない。それなら、別の軸から絶頂の壁をくぐり抜けるだけだ。二人は「裸で?」「裸で!」とゲームで争ったり、カラオケで大声を出したり、コスプレをして追いかけ合ったり、果ては枕投げまで……一通り全ての道具を試した。狭い部屋では走り回るのも難しい。大学だってそうだろう。子供みたいなことでも、やってみれば楽しいものだ。途中からAIのことなんて忘れてたね、とミキが笑う。

しかし結局、どうやってもAIを騙してOKを引き出すことはできないまま、さらに三時間が経った。

「やっぱり、AIは騙せないよね。ごめんね、私がここに入る前にちゃんと言ってたらよかったのに……」

「あーもう無理、マジ疲れたぁ。あたしたち、一生ここで遊んでエッチして死ぬだけなの?」

「そう言っちゃうと、なんか……幸せかもね」

「そんなわけないでしょ! あたし、死ぬときは海って決めてるのに」

二人はつるつるした生地の薄いコスプレを地肌に着たまま、またベッドに戻って寝転がった。こう壁も天井も白いと、部屋の広さも分からなくなってくる。鮮やかな衣装のつやつやした繊維が白い空間に生々しく浮かび上がって、身体のラインをはっきりとなぞった。

サナはフリルの付いたタイトな魔法少女の衣装に身を包み、ピンク色の布地がその薄い胸元を強調している。衣装と合わせたピンクのニーソックスがよく似合う。ミキの方は、露出の多いへそ出しのセーラー服だ。胸元の赤い大きなリボン、パフスリーブの白いシャツ、青と紫がレイヤードになったミニスカートには銀のベルトが巻かれている。胸が大きいとよく映えるコスプレだ、とサナは思った。

まるでオープニングのイメージシーンのように手を繋ぐ二人が、変わらずAIに監視されたまま再び小休止を迎える。二人で何度か大声に任せて喚き散らしてからは、AIが変なアドバイスを持ち出してくることもなくなっていた。

「サナの気持ちは嬉しいんだけどね。でも、どうやってこの部屋から出るつもりだったの?」

「イったふりで切り抜けられるかなと思って。ミキちゃんにも通じてたし……十万円も欲しいって言ってたし」

「いや、それはイく前のあたしの頭がパーになってるからで……体温も心拍も見てくるAIに通じるわけないよ」

ミキが絶頂する直前のことを思い出すと――気持ちいい!すごく気持ちいい!サナ好き!サナ可愛い大好き!もっとして!――サナのびくびくとした痙攣のリズムが少しずれているとか、不自然だとか、そういう疑いが入る余地は全くなかった。彼女は自分の快感のことで頭がいっぱいだった。

彼女のことをじっと見つめるサナの前で、全てをさらけ出すしかないミキ……そんな恥ずかしい想像をかき消すように、ミキはぶんぶんと首を振る。

「そ、そもそもさぁ、イくふりなんてどこで覚えてきたの? レズもの、好きじゃないって言ってたよね」

「なんとなく、ミキちゃんのまねっこで……動画の人たちってなんか演技っぽくて、参考にならないし」

「そ、そっか。上手なんだね、なんか、こう……あたしの観察」

「うん。ミキちゃんのこと……好きだし」

「……うん、ありがとね! あははっ。もー、調子狂うなぁ」

普段は面と向かって好きだなんて言わないサナが、この部屋に布かれたおかしなルールに当てられたようで、いつもよりずっと大胆にミキの指を絡め取って離さない。告白からルームシェアまで彼女を引っ張ってきたつもりのミキが、彼女の勢いに圧されて照れ顔で頭を掻くしかないというのは、相当なものだ。

彼女が内に秘めて離さなかった嘘を明かしたおかげで、ある種の遠慮まで消え去ったのかもしれない。

「で、次はどうしよっか。用意されてる道具はもう全部使った気がするけど……ねぇAIくーん、他になんかないー?」

「あのね、ミキちゃん。例えばなんだけど――」


「ミキちゃん、どこか痛かったりしない……?」

「あ、うん……平気。ありがと……じゃなくて! なんであたしが縛られてるわけ⁉」

サナが見つけ出したのは、これまたコスプレ衣装と同じ店で買ったであろう簡易的なSMセットである。目隠し、ファーが付いた革の拘束具、ボールギャグ、ポリエステルロープ、などなど。高級感のために黒で統一されているように見えるが、テカテカとした素材が逆効果になっている。

そこからおもむろに縄を取り上げたサナに言われるがまま、ミキは寝転がって手足を左右に差し出したのだ。脚をがばっと開いて丸見えになるのも気にしないのは、既に六時間以上ここにいて感覚が麻痺しているせいだ。

きっと結び方でも教えてくれるのだろう、と疲れた頭でぼんやり思っていたミキは、そのまま手首をぐるりと足首に固定されたあたりで、やっと自分の予想が甘かったことに気付いた。

「だって……やってもいいよって、ミキちゃんが」

「言った。言ったよ。でも、あたしが縛られるとは思わないじゃん! こういうのって、サナみたいな大人しい子が縛られて恥ずかしがるもんじゃないの?」

「ミキちゃん、分かってないよ! 私みたいな薄い子は、手錠でパイプベッドに繋がれるくらいがちょうどいいのに」

「誰が縄の似合う恥ずかしいおっぱいのムチムチ女なのよぉ~……えーん、ロリコン教師に乱暴されるタイプの彼女がいじめてくるよ~……」

ミキが蟹縛りでベッドに転がされたまま、駄々をこねるように身体を左右に揺らす。仰向けになった乳房も大きく流れるように、柔らかな弧を描いて震えた。拘束された手足が動くたびに、白い肌に安いロープが赤く食い込み、ミキの無防備な身体の質感を強調していく。白い部屋の中で、縄の赤い跡だけが浮かび上がるようにも見えた。

しばらくその様子に見とれていたサナだったが、抵抗できない身体を安心して預けるミキの信頼感が、なぜだか突然サナを苛立たせる。自分を信頼してくれて嬉しいはずなのに、緩みきったその信頼が今は邪魔だった。

何をされても逃げられない身体で、自分の一挙手一投足に目も向けないミキの頬を叩いたらどうなるか、とサナは実行する覚悟もない妄想をした。

「ミキちゃん、あんまり動かないでね。叩くよ?」

「……えっ、あっ……はい。ご、ごめんなさい」

サナが急に低く落ち着いた声でそう脅すものだから、ミキは身体を縮めて彼女を見上げるしかない。そうだ。仮にサナが本当に手を振り上げたとしても、ミキは逃げられない。そんなことするわけない、と分かっていても、ミキの身体をじろじろと観察するサナの目はいつもより鋭かった。

しばらくして、ミキが自分をじっと見つめていることに気付いたサナは、にこりと笑って今度は優しい口調で語り始めた。

「私ね、これまで自分でしてもイけなかったって言ったじゃない? でもね、前にレズビアンのカップルさんがやってる……同人AVっていうのかな。ほんとの彼女さんを縛って、泣くまでいじめるやつ……それ見て、ちょっとイきそうになっちゃって」

サナが嬉しそうに「これだ、って思ったの」と告げる言葉にも、ミキは黙ったままだ。

こうして縛られて、泣くまで許してもらえない……際限なく快感を叩き込まれて、辱められて、きっと恥ずかしい言葉も言わされる……まるで自分の行く末を予言されているようで、ミキはじわじわと下腹部が熱くなる感覚に戸惑って、返事ができなかったのだ。

抵抗できない恐怖で指先が冷えていくのに、身体の中には熱が溜まって逃がせない。そんな、初めての感覚だった。

「私、今とっても興奮してる。あの動画の子もそんな目だったの。ねぇ、ミキちゃんはどうしてほしい? 動けなくなってるところ、私に見られてるの……どう?」

「あ、あんまり……痛くしないで、ね?」

「えー? 痛くなんかしないよ~。ミキちゃん、今すっごく可愛いもん!」

サナの指が、ミキの太ももの内側をそっと撫でる。ひんやりとした指がミキの熱い肌を這い上がって、指の腹が性器の縁をかすめた。そして、傷がないか優しく確かめるような手つきでそっと恥丘を撫でていく。そんなほんの小さな刺激がミキの中で何度も反射して、急激に快感が高まっていた。

ミキの身体がぷるぷる震える。こんなの無理だよ、おまんこ触って快感逃がしたいのに、おまんこ触りたいのに、おまんこ触ってよ..……そんなことを言い出したらサナに怒られるのではないか、と声を押し殺そうとしていたミキだったが、とうとう半泣きで自分の窮状を白状した。

「サ、サナ……あっ、ごめん、あたし……イきそ――」

「え、ミキちゃんどうしたの?  私、まだ何もしてないよ? 一緒にイかないと帰れないんだよ? 分かってる?」

「んぁっ……あっ、ご、ごめん。ごめんなさい……んっ……」

そんなことはサナから見れば手に取るように分かることで、もちろん許されることはない。いつもなら二人でくすくすと笑い合う声が、今は一方的にミキに向けられている。そう思ったミキが、サナに命令されるまでもなく自ら醜態を晒してしまったのだと気付くと、また情けない喘ぎ声が漏れ出てしまう。

今の彼女にとっては、サナから与えられる刺激が全て快感だった。自分の快感で手一杯のミキと、その様子を愛おしく思うサナ。言ってしまえば、普段の彼女たちのセックスとあまり変わらないのだが、サナにとっては新たな手応えがあった。イけそうなセックスだった。

「ミキちゃん、まだイってないよね? せっかく自分でおまんこ触れないようにしてあげたのに、もう我慢できないの?」

「も、だめ……すぐイけるから、触ってぇ……」

「しょうがないなぁ。私、まだイってないんだよ? じゃあ、特別に一回だけ――」

サナがそう言い終わる前に、真っ白な部屋にジリリリリと大きなベルの音が響いた。

それから、二人を監視していた絶頂判定AIの一台が密室安全上限時間に達したと告げる。判定対象ではなくなったので、賞金も満額は払い出されない旨も続けてアナウンスした。つまり、あれこれと絶頂する術を試し続けて九時間は滞在したということになる。

AIが差し出した絶頂判定のグラフを眺めるサナ。ぐちゃぐちゃと乱高下している黄色のラインはミキのもので、六割前後で推移し続けている青いサナのグラフは、最終的には上下しながら九割前後まで達していた。サナの手応えの通りだ。あと一時間でもあれば、サナも余裕のない顔でミキを求めていたに違いない。

別のグラフによれば、徐々に二人の鼓動が近づいて、最終的には重なっていたという。長々としたAIのコメントの最後には「二人の相性は最適ですから今後は精進してくださいね」という偉そうな評価と一緒に、潜在的な相性を評価して半額の払い出しがあること、そして「百合カップルが上手くいくコツ7選」のリンクが貼られていた。

「あーあ……ミキちゃん。もう時間切れだって。ごめんね、やっぱり私、イけなかったみたい……」

「あっ……え、で、でも……もうちょっとだから、最後までして? ね、お願い、サナ……」

そう言って腰をゆらゆらと揺らすミキの顔を、サナが冷たい目線でじっと見下ろす。ミキちゃんは何をしても本当に可愛いな、とサナは思った。蔑むようなサナの視線に反応して俯くミキの恥じらう顔を十分に堪能してから、サナはわざとらしくぱっと笑ってみせた。

「そろそろ縄が痛いよね! 蟹縛りって、エッチだけど負担が大きいの。すぐ解くから…… あんまり動かないでね

「……っ! は、はい……」

サナが縄を解きながらゆっくりミキの肌を撫でる。彼女の指は縄で痺れた皮膚にそっと刺激を与えて、またじわりと熱を帯びて広がった。

脚に束ねられていた手首が解放されて、ミキは思わず背伸びをする。腰がちょっと痛い。足首も固まっている。ストレッチで身体を動かすと、溢れそうになっていた快感を少しずつ逃がせる気がした。緊縛ってやってる最中は全然疲れないんだ、とミキは思った。「人生と一緒かも」とだけ呟くと、サナは「それいつも言ってるね」と一緒にくすくす笑った。

ひとしきり身体を伸ばしたミキが、ばたりとベッドに倒れ込む。サナもその横に添い寝するように飛び込んで、頬に小さくキスをした。

「あーもうホントに無理かも……しばらく動けなさそう」

「私も、流石に疲れちゃった。この後……どうしよっか? 五万円ももらったし、焼肉でも食べて帰る?」

「あー、いいね。そろそろダイエットも飽きてきたし――」

サナが彼女の返事を待たずに「それとも……ラブホで続きする?」と低い声で耳打ちすると、ミキは自分の言葉も継げないまま顔を背けて、それから小さく頷く。サナに何気なくキスされた頬がまた熱くなっていた。


「あー、美味しいっ! いっぱいエッチした後に酒飲んで焼肉って、こんなのおっさんの欲望じゃん!」

「ミ、ミキちゃん、声大きいよ……」

「いいじゃん。せっかく個室で焼肉なんだから。ほら、サナももっと飲んで」

「う、うん……じゃあ、もう少しだけ……」

あれからラブホテルに直行した私たちは、縛られたミキちゃんが子供みたいに大泣きするまでねちねちと言葉責めしてあげて、それからおまんこをいっぱい触ってあげた。泣きながらイくの初めてだって苦しそうに身体をねじってたから、頭を撫でて優しく「たくさんイけてえらいね」って言ったら、ぐちゃぐちゃの顔で笑ってくれたのがすごく嬉しかった。

私もその姿を見ながら初めてイけたから、その後は縄を解いて二人でいっぱい喜びあった。私も余韻でもう一回だけイけたけど、やっぱりミキちゃんは何度もイっていた。その話をもっとここに書いたっていいんだけど、ミキちゃんが怒っちゃいそうだからやめておく。なんか私も興奮してひどいこと言っちゃった気がするし。

でも……また変な部屋に誘われることがあれば、もしかしたら。

最初は家賃の足しにするつもりで飛び込んだ「同時に絶頂しないと出られない部屋」だったけど、結局もらった賞金はエッチとご飯なんてただ欲求を――本当におじさんみたいだ――満たすために使い切ってしまった。一日ずーっと働いてたのと同じなのに。ミキちゃんが満足してるなら、まぁいっか。

「サナ、そんなにメニュー見てどうしたの? あー、まだお肉食べ足りないんだ。こっちも頼もうよ!」

「あ、えと……じゃあ、タン塩のセットにしようかな」

私たち、十万円なんかよりよっぽど取り返しの付かないところに来ちゃった気がする。でも、これでよかった……のかな?


EXTRA: DISCUSSION TOPICS

  • サナが「嘘」を告白したことで救われたのは、嘘をつき続けていたサナ自身でしょうか? それとも、真実を知らされたミキでしょうか?
  • 取り返しのつかないところに来たと自覚しているサナにとって、この後、普通の大学生としてミキとルームシェアを続けることにどのような意味がありますか?
  • もしも世界がAIに完全に統治されて、全ての性的快楽が数値化・公開される社会になったら、あなたはどのような生活を送ると思いますか?

EXTRA: EXERCISES

  • あなたがまだ隠し続けている、愛のある嘘のリストを作ってみましょう。
  • 誰にも見せない自分だけのパラメータを決めて「判定グラフ」を描いてみましょう。
  • 一番仲の良い友達と、あえて正反対のコスプレをして食事に行ってみましょう。
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