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「プルトニウム回収バイト」の噂について

あなたは、プルトニウムを採集して報酬を受け取る闇バイトの噂を聞いたことがありますか?

闇バイトと聞くと、SNSを通じて集められた若者が特殊詐欺や強盗事件の実行役として犯罪に手を染めてしまうという、最近多発している社会問題を想像するかと思います。実はこれとほぼ同時期から、廃鉱や古い工場跡地を採掘・探索してプルトニウムを集める「プルトニウム回収バイト」の存在がインターネットでまことしやかに噂されています。

プルトニウムは、元素記号がPuで原子番号が94のかなり重い元素です。放射能を持っている放射性元素の一種で、主に原子炉の燃料や核兵器の原料として使われると言えば、その危険性が分かるでしょうか。一時的な収入に目がくらんで売り渡したプルトニウムが、最終的に自分たちを攻撃するための核兵器の原料に使われたら――もはや目も当てられません。

日本では、放射性物質によるテロや原子力事故を防ぐために「原子炉等規制法」や「放射性同位元素規制法(RI法)」という法律が定められており、放射性元素や核原料物質を無許可で所持・販売・加工などすると罰せられます。つまり、何ら許可を得ていない個人が勝手にプルトニウムを採集して保管したり、SNSを通じて売却するのは完全に真っ黒な違法行為なのです。そもそも、許可なく私有地に侵入したり資材を持ち出すこと自体が不法侵入や窃盗の罪にあたります。ましてや、そのような活動を助長するプルトニウム回収バイトの募集は、凶悪な詐欺や強盗の教唆と並ぶ強い違法性を孕んでいるのが分かるでしょう。

また、プルトニウムの採集はこのような法律上の問題だけではなく、重篤な健康被害を伴うリスクが非常に高い行為です。通常、放射性物質を取り扱うには遮蔽壁の設置や防護服などの着用が必要であり、適切な防護策を講じても不必要に近づいたり触ったりしてはいけません。前述のRI法でも、空間の放射線を測定する線量率計や個人の被曝量を測定する線量計を用いて、年間の被曝量を適切に管理したり線量限度以下に抑制することが求められています。これらの線量限度を超えて被曝すると、放射線障害と呼ばれる様々な健康被害を引き起こす可能性が高まります。具体的には、全身の様々な臓器に障害が残ったり、ガンの発生確率が有意に上昇するといった取り返しのつかない事態に繋がるのです。

しかし、プルトニウム回収バイトを請け負う若者たちは、線量計による被曝量の測定はもちろん、適切な防護服の着用さえ怠ったピクニック気分の軽装で採集を行っているようです。これでは、採集場所での一時的な外部被曝にとどまらず、体表に付着した細かいプルトニウムによって周囲を被曝に巻き込んだり、呼吸や飲食でプルトニウムを体内に取り込むことで内部被曝を引き起こしてしまいます。特に、プルトニウムは体内に蓄積しやすい性質があり、内部被曝の被害が大きくなりやすいα線を放出するので非常に危険です。

また、プルトニウムを探索・回収する方法もいい加減と言わざるを得ません。かれらは放射線を検知するための線量計を持っていないので、指示された廃鉱や工場跡地に忍び込んで闇雲に探索を繰り返すしかないようです。プルトニウムはわずかに青い燐光を放つので月の出ない夜に探せばいいとか、常に熱を放っているのでテントウ虫などの昆虫が集まっている場所を探すと早いとか、まるでゲーム感覚の見分け方がバイト界の一般常識として広まっています。非効率な探索方法では被曝時間が長くなりますし、あちこちをひっくり返して粉塵を巻き上げることで内部被曝のリスクが跳ね上がるはずですが、高額な報酬にしか興味のない若者たちは全く気にしません。

ただし、これらのバイトの実態については、匿名掲示板に書き込まれた体験談をまとめたものであり、実際にバイトを募集する書き込みを確認した人は誰もいないのが現実です。また、応募から換金までの一部始終を語った信頼性のあるルポ記事なども今のところ存在せず、それぞれの断片的な投稿ひとつひとつを確認していくと、憶測や創作の域を出ないものが混ざっていることを確認できます。プルトニウムの採集方法どころか、プルトニウムを回収するという闇バイトの存在さえ、根も葉もない都市伝説なのかもしれません。

さて、単なる都市伝説だとしても、このようなプルトニウム回収バイトの噂がインターネットで広がっているのには何か理由があるのでしょうか? SNSに寄せられたこの闇バイトに関する考察や調査をまとめてみると、主に次の二つの特徴が浮かび上がってきます。

まず、プルトニウムが高値で売れるという内容については、過去の放射性物質に関する事件や風評被害への対応と共に語られています。放射性物質に関する事件では、2019年に都内の高2男子生徒がアメリシウムという放射性物質の所持で逮捕されたり、オークションサイトでウランが流通する事件が立て続けに起きており、放射性物質の売買という違法な取引で高額な収入を得られるというイメージを裏付けているようです。また、福島第一原子力発電所の事故で風評被害を受けた農産物や水産物を秘密裏に国費で買い取っていたという、真偽不明の対応策と結びつけた主張もいくつか見かけました。

そして、高値で買い取ったプルトニウムがどう利用されているかについては、さらに意見が分かれています。冒頭で説明したとおり、プルトニウムが核兵器の原料に使われるので、日本を壊滅させるための核兵器を作る計画であると警鐘を鳴らす主張は、噂が広まった当初から根強く残っています。他には、紫外線下で鮮やかな黄色に輝くプルトニウムガラスの原料として、あるいは東北地方の山奥にあるプルトニウム温泉を営業するための材料として広く集めているという説も唱えられています。最近では、プルトニウムが安定してα崩壊するという性質から長寿命の原子力電池に用いられていることになぞらえて、宇宙人がUFOを修理するための材料を集めているというオカルトチックな説も飛び出しており、ますます噂の真相が怪しくなるところです。

みなさんは、このようなプルトニウムの採集と引き換えに高額な報酬を謳う「プルトニウム回収バイト(プルサーマルラン)」を見つけても、決して近づかないようにしてください。プルトニウムによる被曝のリスクを背負うだけではなく、知らず知らずのうちにみなさんの平穏な生活を脅かす危険な存在に協力してしまうことになるかもしれません。

/* ※本記事は、日本国内の法律に違反する行為を推奨したり、重篤な健康被害に繋がる行為を助長したり、実在の人物・団体・法律や、実際の事件・事故・噂について記述するものではありません。 */

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