体験談と体験版

体験版で購入するよう誘惑してくれる作品がもっと増えてほしいですね。

概要

DLsiteのようなダウンロード販売サイトにおいて、マンガ、同人CG集、同人音声、ゲームなどの 体験版 というと、我々が想像するのは以下のようなコンテンツだろう。

  • 製品版の冒頭を抜き出したもの( 冒頭抜粋型
  • 製品版から特定のシーンを抜き出して繋ぎ合わせたもの( 見どころ抜粋型

このようなコンテンツは、閲覧に購入が必要な 製品版 のサブセットである。タイトルや内容説明のテキストを配置したり、シーンやトラックのリストを画像に起こすことはあるかもしれないが、このような場合でもあくまで製品版を主、体験版を従とした主従の関係にある。

一方で、このような製品版の切り抜きとしての体験版の域を超えており、製品版を宣伝するための独立したコンテンツとして成立している体験版も多く流通している。本記事では、その中でも製品版に登場するキャラクターが視聴者に語りかける インタビュー型 の体験版について複数の例を挙げ、その内容を紹介する。

体験版とは

体験版 とは、閲覧に購入が必要なコンテンツである 製品版 についての統制された情報である。 販売者 にとっては製品版を購入させるための宣伝手段の一つであり、 購入者 にとっては内容が分からない製品版の価値を予測する手段の一つとなる。

ここで、製品版は購入するまで内容が分からないコンテンツであるというのは重要なポイントである。購入しなくても内容が分かるコンテンツにおいては、体験版は購入させる手段ではなく、インプレッションを集めるための手段となってしまうからだ。購入とクリックでは動機もコストも違う。

冒頭抜粋型

さて、体験版を作る単純で基本的な手法として、製品版の冒頭を抜粋するというもの( 冒頭抜粋型 )がある。すなわち、画像なら数枚、文章なら数百文字、音声なら数分間、ゲームなら最初のステージやシーンを視聴できるようにして、無料で配布するというものだ。販売者がどこまで内容を明らかにするかを決められるという点で、いわゆる違法アップロードとは本質的に異なる。

例えば、メディアプラットフォームのnoteでは、記事の前半を体験版として区切るための有料ラインという機能がビルトインで用意されている1。また、イラストコミュニケーションサービスのpixivでは、クリエイターが自らのパトロンサービスに投稿した記事の一部を抜粋して投稿している2。この例においては、pixivの作品が支援プランに加入させるための体験版となっているといえるだろう。Twitterでしばしば見られる「〇〇が〇〇する話」スタイルの広告も、コミックスを購入させるために第一話を体験版として公開するものが多い。

このような手法は、購入者の「続きが気になる→購入したい!」という感情を刺激することをねらっている。多くのコンテンツは先頭から視聴されることを期待している3し、先頭から途中まで視聴させることで文字通りコンテンツを 体験 させることができる王道の手法といえるだろう。しかし、冒頭抜粋型にはいくつかデメリットがある。

まず、販売者は冒頭で十分に盛り上がるようによく気を付けて作品を構成しなければならない。宣伝手段に合わせて作品を構成することが必ずしも誤っているわけではないが、そのせいで作品の幅が狭まれば最終的に悪い結果をもたらすだろう。音声作品を例に挙げると、長々と世界観や状況説明を繰り広げるプロローグ部分を体験版として提供するのはかなり効果が薄い。このようなプロローグは製品版の一部としては重要だが、体験版としては盛り上がりがなく、また不要な情報を多く含んでいるからだ。言い換えると、以降のトラックを聴かせるための材料であって、作品自体を購入させるための材料ではない。

また、購入者は冒頭のみで後半の内容や構成を予測しなければならない。これは、多くのケースで不正確かつ不安定なものになりがちである。いわゆる有料ラインは、販売者にとって良い製品版ではなく良い体験版を作るモチベーションとなるからだ。すなわち、面白い製品版を作ることよりも続きが気になる体験版を作ることに興味が向いてしまう。巧妙に細工された体験版は、製品版とは全く異なる顔をしている。

見どころ抜粋型

そこで、体験版を作るもう一つの基本的な手法として、冒頭に限らず特定のシーンを抜き出して繋ぎ合わせるもの( 見どころ抜粋型 )を考える。盛り上がるシーンや各トラックの冒頭を抜き出し、時系列順に並べて無料で視聴できるようにするのが典型的な構成だ。やはりこれも購入者の「続きが気になる→購入したい!」という感情の動きをねらっている。

見どころ抜粋型は、冒頭抜粋型における単一の有料ラインのように単純な戦略ではなく、どこからどの程度抜き出すかを(多くの場合複数)選択する必要がある。そのため、サービス側の機能ではなく、販売者自身によって製品版とは別に構成した体験版を提供するのが一般的である。盛り上がるシーンを抜き出した体験版は、同人CG集に多く見られる4。音声作品においても、各トラックの冒頭を抜き出した体験版が数多く存在している5

見どころ抜粋型を用いることで、冒頭抜粋型におけるデメリットを解消できる。まず、販売者は冒頭の展開の素早さに縛られる必要がなくなり、結果として自由な作品作りに集中することが可能となる。また、購入者は冒頭に限らず様々な場面の情報を得られるため、体験版から得る印象が製品版の実態と一致することを期待できる。しかし、冒頭抜粋型にはなかった別のデメリットについても注目しなければならない。

つまり、適切なシーンを抜き出して並べるのは想像以上に難しく、運が悪ければ冒頭抜粋型よりも効果が薄くなってしまう。善良な販売者であれば、販売者と購入者が持つ情報の差を意識し、製品版に関する適切なイメージを与えようとするはずだが、統制された情報の組み合わせは複雑で多岐にわたる。見どころを十分に与えなければ当然体験版としての効果は薄くなるし、見どころを公開しすぎても購入者の体験を損なう可能性がある。

例えば、体験版として構成されたコンテンツが製品版の上澄みを集めた要約となっている場合、購入者は製品版を購入したメリットを十分に実感できない可能性がある。極端にいえば、集客効果をねらって体験版で全ての見どころを提供してしまうと、製品版との差異は見どころを接続する退屈なシーンだけとなってしまうからだ。すると、体験版から得られる最大瞬間風速的な爽快感がピークとなり、製品版の実態は相対的に低く見えてしまう。これは、全ての見どころを体験版に詰め込む愚かな販売者を仮定しているわけではなく、販売者が想定する見どころと購入者が期待する見どころに差があれば簡単に起きうる現象である。

体験談と体験版

ここまで、製品版からどのように抜き出すかによって体験版を分類してきた。しかし、体験版を提供する目的に照らすと、必ずしも体験版を製品版のサブセットで構成する必要はない。体験版を提供する目的は、販売者にとって製品版を広く宣伝し、購入者にとって安心して購入するためであることから、それを達成できるのであればどんな内容でもよい。

ここからは、製品版のサブセットで構成されない体験版の一例として、製品版に登場するキャラクターが購入者に語りかけるタイプの体験版( インタビュー型 )を紹介する。

インタビュー型の体験版について理解するために、まずは 体験談 の性質を持つ作品について紹介する。ここでいう体験談とは、性的な経験が豊富なキャラクターAが、性的な経験に劣るキャラクターBに対してAの経験について話したり、Bではないキャラクターで性的な経験を実演する形式である。AがBに直接性的な働きかけを行うわけではなく、Bがあくまで傍観者として言葉や視覚で興奮してしまうという点に大きな特徴がある。Bは読者が感情移入しやすいように、特徴のないキャラクターとして描かれることが多い。

体験談の性質を持つ作品として、具体的には以下のようなものが挙げられる。

これらは概してキャラクターBが傍観者のまま言葉や視覚で興奮させられ、また興奮している事実を指摘され、場合によっては意図しない絶頂に導かれる作品である。このような体験談の性質を生かしたコンテンツを体験版として製品版の外に出すことで、「キャラクターAが傍観者たる視聴者を言葉や視覚で興奮させる」という構造が簡単に実現できる。インタビュー型の体験版においては、体験談におけるキャラクターBは購入者と同一視することができ、その場合は想定視聴者の特徴だけではなく、体験版を視聴している事実さえも言及されうる。

体験談という特殊なシチュエーションの性質上、インタビュー型の体験版は性的な経験が豊富なキャラクターAと視聴者と同一視できるキャラクターBが登場する作品でなければ採用できない形式ではあるが、取り入れることで体験版に適した性質を備えることができる。

つまり、製品版に登場するキャラクターが視聴者に向かって語りかけるという状況を自然に演出できるため、販売者の立場で示す単なる広告よりも作品の雰囲気を伝えやすくなる。キャラクターが作品の見どころについて直接解説することで、製品版の一部を抜き出すよりも安全で効率的な宣伝を実現できるのである。もちろん、キャラクターAが視聴者を認識したり、話しかけたりするという挙動がふさわしくない作品においては、あくまで作品内の世界にいるキャラクターBに語りかけているという形式にすればよい。

体験談の性質を持つ体験版として、具体的には以下のようなものが挙げられる。

今回例に挙げたものは全て音声作品だが、もちろん多くのフォーマットの作品に適用できる。

これらの体験版は、随所に製品版の概要が含まれているものの、製品版の抜き出しで構成されているわけではなく、製品版とは別に収録・制作したコンテンツである。すなわち、それ単体で視聴されることを意識して発信される独立したコンテンツであり、究極的には架空の体験版を集めた作品が製品版として成立しうる可能性を孕んでいる。

まとめ

ここまで、製品版のサブセットとして構成される典型的な二種類の体験版について解説した上で、製品版に登場するキャラクターが購入者に向けて内容説明を行う インタビュー型 の体験版を紹介した。インタビュー型の体験版は、一方が傍観者となる体験談の性質を取り入れることで、体験版として適した性質を備えることができる。本記事では、体験談の性質を持つ作品とインタビュー型の体験版を持つ作品の両方について具体的なタイトルを紹介した上で、体験版が持つ新しい可能性について触れた。

「読んだ」を押すと、あなたがボタンを押した事実を明示的に通知してこのページに戻ります。
このページに戻ってからブラウザの「戻る」ボタンを押すと、何度か同じページが表示されることがあります。

More information...